2006年 02月 18日
ナイモノネダリ |
『Qui ta ore』ブログ一周年を記念して★(勝手に)
犬と串カツの小話『ナイモノネダリ』をかきました。
早いもので、2月19日で、ブログ書き始めて1年が経ちます。
書いてて気付いたのが、こうやって自由に書くのがすきなんやなぁって。
写真アップしたり、それに文章書いたりしていくのが、けっこう楽しくて♪
タコヤキパーティーから始まって、
1年かぁ・・・・。
何事もこういうことには、実感わかないです★
でも、ヒトコトで言え!と言われれば「よかった」って心カラ思う。
ブログも1年続けられてるし、よかった♪
普段は、日常のこと・思ってることを日記的に書いてるんやけど、
今回は、特別企画のツクリモノの小話をあげました。
不器用文章をムリとにだらだら書いたので、
だらだら時間のあるときにぜひ、読んでみてみて。
***************************************************
マリコには、ずっと片付けられないものがあった。
フォトスタンドの中で、2人並んでほんの少し間をあけて立っている夏の写真。
もうすぐ、その色とにおいがかさなる季節になる。
スペイン製のフォトスタンドには、フレームに小さなタイルが散りばめられていて、
ごつごつした質感と、なめらかな色合いに一目ぼれした一点物だった。
両面使えるデザインになっていて、表向きには、ずっと一緒に暮らしていた
ロナの写真をいれていた。
ベッドから本棚を見上げると、目が合うのはいつもロナの方で。
手にとって裏返すと、眩しい陽射の中で遠慮がちに笑っている2人の姿が、
くっきりと見えた。
お酒を飲んだときと、内側が疲れてるとき、マリコは手を伸ばして、フォトスタンドの
向きを変え、彼と自分の間にあるビミョウなスキマををながめている。
そこをぼんやり見ていると、写真に焦点が合うことはなく、泣いてなくても
にじんでいるように見えた。
さんぽとカマボコが大好きだったロナと、ルパンとアボガドが大好きだった元彼。
そんなロナと彼の共通点はくしゃみだった。
目をつぶってから半拍おいて、"っふ ぶしゅん"と首をたてに振ってするくしゃみが、
ロナとそっくりだったので、初めてヒロキのくしゃみを見たとき、ロナの生まれ変わり
なんじゃないかとびっくりして、口の中のお蕎麦が、うまく咀嚼できなくなったことを
覚えている。
そのくしゃみを聞いてから2週間後に付き合って、そこから3 ヵ月後くらいには
別れていたので、ヒロキとはそんなにどっぷりはまった恋愛をしなかった。
それなのに、なんでずっとその写真を手の届くところに置いているのか、
マリコ自身よくわからいまま、ほったらかしにしている。
****************************************************
1日中降り続く雨の音をききながら、写真を手にしたマリコは、去年よく食べに
行った串カツ屋のことを思い出し、ムショウにそれが食べたくなった。
ヒロキの家の近くにある串カツ屋は、せまくて古くて安くて、格段においしかった。
お店に行くときの、自転車の後ろに乗って食べたい気持ちを逸らせながら坂を
下りていく感覚も心地よかったし、
帰りはコンビニに寄り道し、アイスを買って食べたり、途中で花火をしたりしながら、
自転車を押すヒロキの隣を、ゆっくり歩いて家まで着くのも、この上なく楽しかった。
少し小さめな路地に入ってさらに小さな路地を曲がると、串カツ屋の入口が
すぐ先に見える。自転車を向かいの壁沿いに止めて、のれんをくぐり、
引き戸を開けると、壁の色は、あれは何だろう。
鈍黄色で、油がうつったような、透明感のないつやがかっていて、
カウンター上の壁には、味のある筆字で、『ぶた』・『ちーず』・『れんこん』などの
メニューの札が連なって掛かっていた。
表面の白く凍ったジョッキに、たぷたぷの泡ののっかったビールがつがれ、
コレを待ってました!とばかり、夏の体に1/4ほど注ぎこむと、
揚げたての串カツが、カウンターから目の前にさしだされる。
この組み合わせとタイミングがたまらない☆
お互いの串を取ると、ソース(野菜には塩)をつけて、カブリといただく。
ぁぁ今すぐカブりたい☆
・・・・・。
ぁっ・・・。
いい思い出をヒトトオリ思い起こすと、後からイヤな味の思いも出てきてしまう。
こんなにおいしいものを食べても、お店を出るときマリコは、たいがい満たされて
いることはなかった。
いつも、もう少し食べたいのに、ヒロキは
「腹いっぱいやし。も帰ろか」
と言ってくるので、それ以上注文ができなくなってしまっていた。
マリコはもの足りない気分でイライラし、帰った夜中に、オナカがすいたと
ラーメンを食べるヒロキが理解できず、さらにイライラしていた。
でもやっぱり、あのお店の串カツを食べたい。
しかし、根本的にお店の名前も場所もわからなかった。
のれんに書いてあった店の名は、漢字が難しそうだったので読んだ覚えはなく、
いつもヒロキの家から自転車で行っていたので、あの狭い路地が、駅からどの
方角にあるのかマリコには見当がつかなかった。
メールで聞いたら教えてくれるのかな・・・。
少しだけ胸がチクリとした。
別れてから一度だけ、メールを送ったことがあったが、返事はなかった。
事務的な内容で、特に返事がいる訳ではなかったので、なくてもあたり前だと
思っていたが、送ってから2~3日は着信するたびに、どこかでヒロキ?と
意識してしまう自分がイヤだった。
付き合っているときも、ヒロキの返事はいつも、遅いか無いかのどちらかだった。
たった一言でもいいのに、その一言をくれない。
用事があって、かけてるのに電話に出ない上に、かけなおしてこない。
無意識のイライラにマリコは、相当疲れていたことに別れてから気付いた。
教えてくれなくても、ま、いいか・・・。
もう、そう思えるようになった自分に自信が持てたので、できるだけシンプルに、
元気?と聞いた後に、串カツが食べくなったので、よく行ってたお店の名前と
場所を知りたいと、メールを送信した。
**************************************************** ぇ?
意外なことに、数分後に返事が来た。
違う人に送ったのかと、アドレスを再確認するほどの速答だ。
しかも、顔文字まで入っている。
【それなら食べにおいで!最近行ってなくておれも食べたかってん(^▽^)/】
!
すでに、一緒に食べに行く話になってる・・・・・。
何だか別の人とメールをしているみたいに、ぽんぽんとやりとりが進むと、
この週末に、ヒロキと串カツ屋に行くことが決まった。
****************************************************
久しぶりに、ヒロキの街の駅で降りる。
1人でいると、知らない所に来てしまったようで、立ち位置に少し戸惑った。
メール通り5分遅れて、早足でやって来たヒロキは、早口で話出したひとことめが、
「迷わんかった?」だった。
そもそも時間通りに着いて待っていたのに、変な気の使い方をする。
迷うもなにもココ駅前やし―マリコが笑うと、ヒロキも笑って歩く速度をゆるめた。
ずいぶん髪が短くなっていて、後ろから見ると、印象がガラリと変わっていた。
去年は、会えば何かしら、頭がイタイやら、胃がイタイやら、目がイタイやら、
コメカミがイタイやら、ろっ骨がイタイとか、ありえない箇所までイタイと言いながら、
頬あたりまである髪の流れを、気だるそうに指でかきあげていたのに。
「ほとんど丸ぼうずにしてたから、これでも伸びたほうやねんで。」
と、自分の頭のてっぺんからなでるしぐさが、かわいいと思えた。
ヒロキは機嫌がいいとき、ハナ歌を口ずさみがら歩幅を開け気味に歩く。
ゴキゲンなヒロキに続いてのれんをくぐると、何もかわっていないにおいが
店内にたちこめていた。
カウンターに座った瞬間、すべてが元どおりな錯覚がした。
その瞬間の後は、ただただ勢いのあるヒロキに、心の奥でびっくりした。
なににって、話に勢いがあった。
おいしいを連呼しながら元気そうにゴハンを食べ、近況を話し始めた。
仕事のはばが広がり、昇給もしたらしい。
その分出張が増え、忙しくはなったが、仕事の楽しさがわかってきたと熱く語る。
最近仲良くなった友達は、アウトドア好きで、釣りやBBQにもよく行ってるらしい。
キャラクターのフィギュアを、DVD棚の前に並べて「カリオストロの城」をどこまでも
語っていたヒロキが、川ではしゃいでいるなんて。
いい意味でおかしく、マリコはずっと笑いながらヒロキの話に相づちをしていた。
久しぶり会ったという以上に、新鮮な感じだった。
ただ、雰囲気のわりに高い声や、笑ったときの目じりのさがりぐあいがそのままなのと、
店全体と馴染んでるヒロキの姿に、安心して隣にいれたのは確かだった。
しゃべりたて続けるヒロキは、ナスビを食べながら、
「家よってく?」と楽しそうに言ってきた。
終電があるからもう少ししたら帰らないと・・・と小さくなる語尾に続けてナスビを食べた。
コロモとはウラハラに中身は熱く、ゴフゴフと顔をしかめていると、
ヒロキは、そやねと、なつかしそうにマリコの口元を見て笑った。
気がつくと、マリコはおなかいっぱいになって店を出ていた。
****************************************************
最終電車に揺られながら、アルコールがまわる頭の中でくっきりと感じた。
ヒロキに会えてよかった。
今日会ったヒロキは、付き合っていたときにマリコが求めていたものを
確実に持っていた。
串カツを食べれたこと以上に、そんな彼に会えた喜びの方が大きかった。
隣にいた時のその心地の良さは、快活なヒロキを肯定的に、そして客観的に
見ることができたからだと思う。
そんなヒロキに会えたから、あのときの自分が、明確にみえてきた。
****************************************************
あの頃は、
連絡がない上に、メールも電話も返事がないことはしょっちゅうだったし、
体調不調や、学生時代の彼女の話や、全然知らない女友達のことに、
買ったのにおいしくなかった食べ物の話もたくさん聞いたし、
おぼん休みに出かけた以外は、ヒロキの街の中で過ごしていた、
(海にも行けなかったし、ユカタも着れなかった)
けれど、
ヒロキのことが大好きだった。
そう、ちゃんと大好きでいたことに今、気付いた。
去年は、なんで?なんでこんななの?って思うことで目の前がいっぱいになり、
いろんなものがわからなくなっていた。
確かに、マリコが困ってるとき、ヒロキはいつもやさしかった。
音楽やお店や何か知らないことを聞けば、マリコ以上に調べて教えてくれた。
朝、くつしたが片方見つからなくて呆然としていたら、マリコ以上に探して見つけてくれた。
ざるソバのツユの袋が開かないときは、マリコ以上に噛んで開けてくれた。
ちゃんとマリコのことを見て、ちゃんと心配してくれている存在だった。
足りないものしか見えなかった。
満たされているものは、見ていなかった。
そして、自分の気持ちも見ないまま、否定することに疲れて、逃げで別れてしまった。
その後は、倦怠感に浸り、有耶無耶な時間をずっと過ごしていた。
認めることが必要だったんだ。
ヒロキのことも。
自分のことも。
そして認めた上で、別れてよかったと思った。
そう思えることに、マリコ自身ふわふわ不思議な気分になったが、
ずっと付き合っていたら、こんなヒロキとまた出会うということはなかっただろうし、
今日成長した姿を見ることができて、自分の決断が間違いではなかったと、
やっとソコから解放されたことに、内にあったイラナイ重力が抜けていった。
ヒロキの駅で買ったお茶が手の中でぬるくなったころ、マリコは電車の音を
ききながら、ゆっくりと目を閉じた。
電車のリズムが、ほどよく体に伝わってくる。
店を出ようと引き戸に手をかけた直後に、ヒロキはくしゃみをした。
次が降りる駅だと気付いたとき、その様子が鮮明に蘇った。
****************************************************
家までの上り坂を進むにつれて、鼓動が早くなっていく。
体の中の回転が速くなっていくと、急展開な心境が芽生える。
それにつられ、次の切望もずんずんと大きくなっていった。
ロナにものすごく会いたい。
いつ帰ってもハイテンションにしっぽを振って迎えにきてくれたロナに会いたい。
朝、網戸を開けると、家に入ってくるんじゃないかっていうくらいの勢いで、
戸のスキマから顔をつっ込んできたロナに会いたい。
カマボコの板を、何個も何個も大切に庭のすみっこに隠していたロナに会いたい。
顔をくっつけ合って濡れたハナを確かめて、もう一度、わしゃわしゃしたい。
部屋に戻るとフォトスタンドを手にとって裏返し、先夏の写真を取り出して、
アルバムのアタリサワリない場所に戻した。
表をむけると、小屋から顔を出して、「何かくれるの?」って見上げてるロナがいる。
マリコには涙でそのカオがよく見えなかったけれど、ロナのその表情は、
だまっていても目にうかんだ。
ロナに会いたい。
ひとしきり泣き終えると
自分のナイモノネダリぐあいがミョウにおかしくなって、そして少し笑ってしまった。
フォトスタンドを本棚に置くと、マリコはハタリとベッドに身をしずめた。
今夜は、ロナのこと、ロナの思い出を、まるごと思い出しながら眠りにつこう。
夢に出るくらい、思いっきり☆
犬と串カツの小話『ナイモノネダリ』をかきました。
早いもので、2月19日で、ブログ書き始めて1年が経ちます。
書いてて気付いたのが、こうやって自由に書くのがすきなんやなぁって。
写真アップしたり、それに文章書いたりしていくのが、けっこう楽しくて♪
タコヤキパーティーから始まって、
1年かぁ・・・・。
何事もこういうことには、実感わかないです★
でも、ヒトコトで言え!と言われれば「よかった」って心カラ思う。
ブログも1年続けられてるし、よかった♪
普段は、日常のこと・思ってることを日記的に書いてるんやけど、
今回は、特別企画のツクリモノの小話をあげました。
不器用文章をムリとにだらだら書いたので、
だらだら時間のあるときにぜひ、読んでみてみて。
***************************************************
マリコには、ずっと片付けられないものがあった。
フォトスタンドの中で、2人並んでほんの少し間をあけて立っている夏の写真。
もうすぐ、その色とにおいがかさなる季節になる。
スペイン製のフォトスタンドには、フレームに小さなタイルが散りばめられていて、
ごつごつした質感と、なめらかな色合いに一目ぼれした一点物だった。
両面使えるデザインになっていて、表向きには、ずっと一緒に暮らしていた
ロナの写真をいれていた。
ベッドから本棚を見上げると、目が合うのはいつもロナの方で。
手にとって裏返すと、眩しい陽射の中で遠慮がちに笑っている2人の姿が、
くっきりと見えた。
お酒を飲んだときと、内側が疲れてるとき、マリコは手を伸ばして、フォトスタンドの
向きを変え、彼と自分の間にあるビミョウなスキマををながめている。
そこをぼんやり見ていると、写真に焦点が合うことはなく、泣いてなくても
にじんでいるように見えた。
さんぽとカマボコが大好きだったロナと、ルパンとアボガドが大好きだった元彼。
そんなロナと彼の共通点はくしゃみだった。
目をつぶってから半拍おいて、"っふ ぶしゅん"と首をたてに振ってするくしゃみが、
ロナとそっくりだったので、初めてヒロキのくしゃみを見たとき、ロナの生まれ変わり
なんじゃないかとびっくりして、口の中のお蕎麦が、うまく咀嚼できなくなったことを
覚えている。
そのくしゃみを聞いてから2週間後に付き合って、そこから3 ヵ月後くらいには
別れていたので、ヒロキとはそんなにどっぷりはまった恋愛をしなかった。
それなのに、なんでずっとその写真を手の届くところに置いているのか、
マリコ自身よくわからいまま、ほったらかしにしている。
1日中降り続く雨の音をききながら、写真を手にしたマリコは、去年よく食べに
行った串カツ屋のことを思い出し、ムショウにそれが食べたくなった。
ヒロキの家の近くにある串カツ屋は、せまくて古くて安くて、格段においしかった。
お店に行くときの、自転車の後ろに乗って食べたい気持ちを逸らせながら坂を
下りていく感覚も心地よかったし、
帰りはコンビニに寄り道し、アイスを買って食べたり、途中で花火をしたりしながら、
自転車を押すヒロキの隣を、ゆっくり歩いて家まで着くのも、この上なく楽しかった。
少し小さめな路地に入ってさらに小さな路地を曲がると、串カツ屋の入口が
すぐ先に見える。自転車を向かいの壁沿いに止めて、のれんをくぐり、
引き戸を開けると、壁の色は、あれは何だろう。
鈍黄色で、油がうつったような、透明感のないつやがかっていて、
カウンター上の壁には、味のある筆字で、『ぶた』・『ちーず』・『れんこん』などの
メニューの札が連なって掛かっていた。
表面の白く凍ったジョッキに、たぷたぷの泡ののっかったビールがつがれ、
コレを待ってました!とばかり、夏の体に1/4ほど注ぎこむと、
揚げたての串カツが、カウンターから目の前にさしだされる。
この組み合わせとタイミングがたまらない☆
お互いの串を取ると、ソース(野菜には塩)をつけて、カブリといただく。
ぁぁ今すぐカブりたい☆
・・・・・。
ぁっ・・・。
いい思い出をヒトトオリ思い起こすと、後からイヤな味の思いも出てきてしまう。
こんなにおいしいものを食べても、お店を出るときマリコは、たいがい満たされて
いることはなかった。
いつも、もう少し食べたいのに、ヒロキは
「腹いっぱいやし。も帰ろか」
と言ってくるので、それ以上注文ができなくなってしまっていた。
マリコはもの足りない気分でイライラし、帰った夜中に、オナカがすいたと
ラーメンを食べるヒロキが理解できず、さらにイライラしていた。
でもやっぱり、あのお店の串カツを食べたい。
しかし、根本的にお店の名前も場所もわからなかった。
のれんに書いてあった店の名は、漢字が難しそうだったので読んだ覚えはなく、
いつもヒロキの家から自転車で行っていたので、あの狭い路地が、駅からどの
方角にあるのかマリコには見当がつかなかった。
メールで聞いたら教えてくれるのかな・・・。
少しだけ胸がチクリとした。
別れてから一度だけ、メールを送ったことがあったが、返事はなかった。
事務的な内容で、特に返事がいる訳ではなかったので、なくてもあたり前だと
思っていたが、送ってから2~3日は着信するたびに、どこかでヒロキ?と
意識してしまう自分がイヤだった。
付き合っているときも、ヒロキの返事はいつも、遅いか無いかのどちらかだった。
たった一言でもいいのに、その一言をくれない。
用事があって、かけてるのに電話に出ない上に、かけなおしてこない。
無意識のイライラにマリコは、相当疲れていたことに別れてから気付いた。
教えてくれなくても、ま、いいか・・・。
もう、そう思えるようになった自分に自信が持てたので、できるだけシンプルに、
元気?と聞いた後に、串カツが食べくなったので、よく行ってたお店の名前と
場所を知りたいと、メールを送信した。
意外なことに、数分後に返事が来た。
違う人に送ったのかと、アドレスを再確認するほどの速答だ。
しかも、顔文字まで入っている。
【それなら食べにおいで!最近行ってなくておれも食べたかってん(^▽^)/】
!
すでに、一緒に食べに行く話になってる・・・・・。
何だか別の人とメールをしているみたいに、ぽんぽんとやりとりが進むと、
この週末に、ヒロキと串カツ屋に行くことが決まった。
久しぶりに、ヒロキの街の駅で降りる。
1人でいると、知らない所に来てしまったようで、立ち位置に少し戸惑った。
メール通り5分遅れて、早足でやって来たヒロキは、早口で話出したひとことめが、
「迷わんかった?」だった。
そもそも時間通りに着いて待っていたのに、変な気の使い方をする。
迷うもなにもココ駅前やし―マリコが笑うと、ヒロキも笑って歩く速度をゆるめた。
ずいぶん髪が短くなっていて、後ろから見ると、印象がガラリと変わっていた。
去年は、会えば何かしら、頭がイタイやら、胃がイタイやら、目がイタイやら、
コメカミがイタイやら、ろっ骨がイタイとか、ありえない箇所までイタイと言いながら、
頬あたりまである髪の流れを、気だるそうに指でかきあげていたのに。
「ほとんど丸ぼうずにしてたから、これでも伸びたほうやねんで。」
と、自分の頭のてっぺんからなでるしぐさが、かわいいと思えた。
ヒロキは機嫌がいいとき、ハナ歌を口ずさみがら歩幅を開け気味に歩く。
ゴキゲンなヒロキに続いてのれんをくぐると、何もかわっていないにおいが
店内にたちこめていた。
カウンターに座った瞬間、すべてが元どおりな錯覚がした。
その瞬間の後は、ただただ勢いのあるヒロキに、心の奥でびっくりした。
なににって、話に勢いがあった。
おいしいを連呼しながら元気そうにゴハンを食べ、近況を話し始めた。
仕事のはばが広がり、昇給もしたらしい。
その分出張が増え、忙しくはなったが、仕事の楽しさがわかってきたと熱く語る。
最近仲良くなった友達は、アウトドア好きで、釣りやBBQにもよく行ってるらしい。
キャラクターのフィギュアを、DVD棚の前に並べて「カリオストロの城」をどこまでも
語っていたヒロキが、川ではしゃいでいるなんて。
いい意味でおかしく、マリコはずっと笑いながらヒロキの話に相づちをしていた。
久しぶり会ったという以上に、新鮮な感じだった。
ただ、雰囲気のわりに高い声や、笑ったときの目じりのさがりぐあいがそのままなのと、
店全体と馴染んでるヒロキの姿に、安心して隣にいれたのは確かだった。
しゃべりたて続けるヒロキは、ナスビを食べながら、
「家よってく?」と楽しそうに言ってきた。
終電があるからもう少ししたら帰らないと・・・と小さくなる語尾に続けてナスビを食べた。
コロモとはウラハラに中身は熱く、ゴフゴフと顔をしかめていると、
ヒロキは、そやねと、なつかしそうにマリコの口元を見て笑った。
気がつくと、マリコはおなかいっぱいになって店を出ていた。
最終電車に揺られながら、アルコールがまわる頭の中でくっきりと感じた。
ヒロキに会えてよかった。
今日会ったヒロキは、付き合っていたときにマリコが求めていたものを
確実に持っていた。
串カツを食べれたこと以上に、そんな彼に会えた喜びの方が大きかった。
隣にいた時のその心地の良さは、快活なヒロキを肯定的に、そして客観的に
見ることができたからだと思う。
そんなヒロキに会えたから、あのときの自分が、明確にみえてきた。
あの頃は、
連絡がない上に、メールも電話も返事がないことはしょっちゅうだったし、
体調不調や、学生時代の彼女の話や、全然知らない女友達のことに、
買ったのにおいしくなかった食べ物の話もたくさん聞いたし、
おぼん休みに出かけた以外は、ヒロキの街の中で過ごしていた、
(海にも行けなかったし、ユカタも着れなかった)
けれど、
ヒロキのことが大好きだった。
そう、ちゃんと大好きでいたことに今、気付いた。
去年は、なんで?なんでこんななの?って思うことで目の前がいっぱいになり、
いろんなものがわからなくなっていた。
確かに、マリコが困ってるとき、ヒロキはいつもやさしかった。
音楽やお店や何か知らないことを聞けば、マリコ以上に調べて教えてくれた。
朝、くつしたが片方見つからなくて呆然としていたら、マリコ以上に探して見つけてくれた。
ざるソバのツユの袋が開かないときは、マリコ以上に噛んで開けてくれた。
ちゃんとマリコのことを見て、ちゃんと心配してくれている存在だった。
足りないものしか見えなかった。
満たされているものは、見ていなかった。
そして、自分の気持ちも見ないまま、否定することに疲れて、逃げで別れてしまった。
その後は、倦怠感に浸り、有耶無耶な時間をずっと過ごしていた。
認めることが必要だったんだ。
ヒロキのことも。
自分のことも。
そして認めた上で、別れてよかったと思った。
そう思えることに、マリコ自身ふわふわ不思議な気分になったが、
ずっと付き合っていたら、こんなヒロキとまた出会うということはなかっただろうし、
今日成長した姿を見ることができて、自分の決断が間違いではなかったと、
やっとソコから解放されたことに、内にあったイラナイ重力が抜けていった。
ヒロキの駅で買ったお茶が手の中でぬるくなったころ、マリコは電車の音を
ききながら、ゆっくりと目を閉じた。
電車のリズムが、ほどよく体に伝わってくる。
店を出ようと引き戸に手をかけた直後に、ヒロキはくしゃみをした。
次が降りる駅だと気付いたとき、その様子が鮮明に蘇った。
家までの上り坂を進むにつれて、鼓動が早くなっていく。
体の中の回転が速くなっていくと、急展開な心境が芽生える。
それにつられ、次の切望もずんずんと大きくなっていった。
ロナにものすごく会いたい。
いつ帰ってもハイテンションにしっぽを振って迎えにきてくれたロナに会いたい。
朝、網戸を開けると、家に入ってくるんじゃないかっていうくらいの勢いで、
戸のスキマから顔をつっ込んできたロナに会いたい。
カマボコの板を、何個も何個も大切に庭のすみっこに隠していたロナに会いたい。
顔をくっつけ合って濡れたハナを確かめて、もう一度、わしゃわしゃしたい。
部屋に戻るとフォトスタンドを手にとって裏返し、先夏の写真を取り出して、
アルバムのアタリサワリない場所に戻した。
表をむけると、小屋から顔を出して、「何かくれるの?」って見上げてるロナがいる。
マリコには涙でそのカオがよく見えなかったけれど、ロナのその表情は、
だまっていても目にうかんだ。
ロナに会いたい。
ひとしきり泣き終えると
自分のナイモノネダリぐあいがミョウにおかしくなって、そして少し笑ってしまった。
フォトスタンドを本棚に置くと、マリコはハタリとベッドに身をしずめた。
今夜は、ロナのこと、ロナの思い出を、まるごと思い出しながら眠りにつこう。
夢に出るくらい、思いっきり☆
by fromkobeQ
| 2006-02-18 16:49
| ひまひま